大判例

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東京高等裁判所 昭和31年(う)1378号 判決

被告人 権莫同

〔抄 録〕

論旨第一点について。

原判決挙示の証拠を綜合すると、被告人は島田勇治、金本某と共に、昭和二十九年十二月五日頃と同月七日頃に、内縁の妻相川ハルがヒロポン製造のために借りていた東京都葛飾区下千葉町四百八番地小林吉造方二階三畳間に於て覚せい剤液をアンプルに詰め、合計して五千本の注射液アンプルを製造し、島田と約半分宛分配したが、被告人は初めからこれを売却する目的で製造したものであり、その後被告人は原判示のように板橋義一、菊地ソノ両名にそれぞれ右の覚せい剤注射液アンプルを譲渡したが、その売却した価格はいずれも一本十円の割合であること、被告人は右アンプル製造のため二階三畳間を借りた小林吉造に二千五百円を支払つている外金七千円をその製造をした金森某に渡しているが、これらの費用を計算して前記覚せい剤アンプルの製造原価は一本二円位と認められ、これを一本十円の割合で販売すれば相当の儲があること、及び被告人は昭和三十年一月上旬頃前記菊地ソノに右アンプル二百五十本を売却するのに妻相川ハルと共に土浦市田宿九百八十七番地の菊地ソノ方に出向いているのであつて、一本十円の売却代金で少くとも汽車賃等の出費を賄える程度の利益を挙げていることが明白で、それ故被告人は、利益を得る目的で前記注射液アンプルを製造し、現にこれを売却して利得を収めているものと認められ、被告人が自己の中毒緩和のために製造したとの所論事実は認められず、又一本十円というのが覚せい剤販売の通常の価格で常習的に覚せい剤を取り扱つている板橋義一及び菊地ソノから世間なみの相場で受け取つたものであるとしても、その販売により被告人が利益を挙げてはいないということもできない。なるほど被告人は葛飾区下千葉町六百六十九番地に居住し職工数名を使用する籐椅子製造業を営むことは記録上明らかであるが、昭和三十年法律第一七一号を以つて改正せられる以前の覚せい剤取締法第四十一条第四項の営利の目的をもつてというのは必ずしも他に定職なく同条に規定する行為をなすことを職業とし、或いは生計の資を右違反行為によつて得ていることを要するものではなく、被告人が籐椅子製造業であることを認めても、前記証拠のとおり被告人が営利の目的をもつて本件覚せい剤譲渡行為を為したと認定して差支えないこと明らかである。原判決がこれと同趣旨に出で被告人の所為が営利の目的に出た旨判示したのは正当で、事実を誤認したとはいえないから論旨は理由がない。

(加納 吉田作 山岸)

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